六月のヘリコプター
六月はヘリコプターがやって来た。
六月の花嫁ならうれしいが六月のヘリコプターはなにか怪しげである。
六月のつまご屋は忙しい季節、畑の草取りや作物につく害虫の駆除など
忙しい六月のある日のこと、トマトハウスの中での作業中、
山のかなたからヘリコプターがやって来た。
ヘリコプターが好きです。子供のころ好きでした。
ヘリコプターの音がいい、あのプロペラのバタバタ感がいい、それと
飛行機と違いゆっくりした動作で動き回るところが竹とんぼの原形を残している。
子供のころヘリコプターが飛んでくると夢中で家から裸足で飛び出し手を振りました。
とくにヘリコプターだけでなく自動車や汽車など音を立て煙を吐き走るもの
は珍しく不思議な感覚におちいった。
なにしろ少年は空を飛ぶものは鳩やトンビや赤とんぼ、街道を荷を引いて歩むのは牛や馬
しか見たことがない。
鉄が空を飛び、ジャリ道の埃を立てながら走り去るトラックは
街へサーカス団が連れて来る象と同じくらい感動した。
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六月のヘリコプターが大空をかけめぐる
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トマトハウスの中は37度の温度を指していた。汗だくに喉の渇きとだるさで
早くトマトハウスから出たい、そんな時ヘリコプターがやって来た。
トマトハウスを飛び出し思わず手を振り「こんにちはー」と大声で叫びました。
気持ち良かったです。スカッとしました。
記憶の中でよみがえる突然の行動は怪しく異常に見えたに違いない。
六月のヘリコプターはトマトハウスの上空をグルグル旋回し始めたではないか。
ヤバイ。あの六月のヘリコプターの操縦士は救助を求めていると
勘違いしたにちがいない。超ヤバイって感じ。なんでもないよ、と叫んでも聞こえないでしょう。
平素を装いなにごともなかったように暑いトマトハウスの中で
また作業をしましたよ。
ヘリコプターはやがて山の彼方へと飛んでいきました。
少年の心を持つ大人のため、それに応えて旋回したのか、SOSと勘違い
したのか六月のヘリコプターは謎である。