郵便配達人
失った大事な夫の思い出もその先から夫がいる生活は、細い糸がある日突然プツンと切れて
なくなったことを良太はまだ理解できない。
強い風の音もいじわる、夜の寝しまに親子二人でねていると玄関からバタンと音がすると良太は
パパが帰ってきたと飛び出していく。
私はもう干しあがるほど涙をながしたのに。
郵便配達人を始めてから30年、どこの世帯が家族が何人で名前まで憶える。
地域の子供の顔から名前までほとんどわかる。
とくに良太は去年、父を交通事故で亡くしてから私のほうから声をかけるようにしている。
良太は元気に振舞っているようにみえるが、なにかの拍子にうわの空になる。
良太、なにを考えているんだ。と聞くとパパが帰ってこないんだよ そうだなあ、帰ってこないんだなあ
そのうちパパから手紙がくると思うよ、おじさん、なにしろ郵便配達人してるからまっさきに良太ン家へ
配達するよ。私はそう口に出して後悔したがあとの祭り。
つぎの日から良太は私を待つようになりパパから手紙こない?と聞くのである。
私は良太のパパになりきって手紙を書くことに決めたがはて、困った、パパの気持ちも良太のきもちも
痛いほど解るがそれを文章に表現することとは別のことだ。
天国のパパから良太へ
良太、元気か?パパも元気だよ、パパが車にひかれたことは知ってるよね。
パパはそれで体がなくなたんだけど心は遠い国、世界にある国ではなくて、
もっともっと遠い国で良太とママのことを想っているんだ。
この手紙も神様から特別な許可をえて、それも今回かぎりだよ。
良太とママとはこんなことになるとは思ってもなかったよ。悲しかった、さびしかった、
もっといっぱい良太と遊び話をしたかった。
でももう、それはできないんだよ。今はわからないかもしれないけど、もう少し大きくなるとわかるよ。
ママにも言いたいことがあるんだ、味噌汁が薄くて味がないなんていってごめん、
体のことを考えていったんだね、無視してごめん、偉い夫でごめん
ママとず〜と逢えなくなってママのすばらしさが解ったんだ。
良太はしっかりしてる子だからパパがいなくてもママを守れる、
私はもう遠い存在なのだから二人で前向きに生きていってほしい。
郵便屋さんちょっと、ちょっと、このあいだの御手紙、書いてくださったのは郵便屋さんですよね。
お名前教えてもらってもいいでしょうか?私はよけいなことをして訴えられると思ったが
以外にも、ありがとうございました。と言い、私はあの手紙を読んで心のわだかまりが
スーと抜けていきました。
良太もあれからパパは遠いところの天国へいって僕とママを見守っているんだよね。
と言ってくれました。 ほんとうにありがとうございました。
三つの心をひとつの絆に結んだ郵便配達人
この地域を支え、愛してくれた30年ほんとうにご苦労様でした。
彼は配達が遅い、また配達先の家で世間話をしている
という告発があり上司から目をつけられていたそうです。
こんどから違う地域の担当になります。あなたの街であうかもしれませんね。
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