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えんぶり考
春が来たと思っても遠く日の昇る朝は寒さに身をちじめストーブの薪をくべるが
家の外に出るも手はかじかみ急いで家に入るも敷居に足を取られ薪は
なんの哀れさもなくその辺にちらばっている。
春一番、田の土手から顔を出すのは蕗の蕩、北は遥かに青空に霞み山の峰は白雪の
雪が小川の水かさの流れや春の風。
春の音の響きは秋の愁いと違い山の雪や氷の張る音は
空から吹く風の音は遠くから聞こえるえんぶりの音と似る。
えんぶりの音は空をかすめ風を吹き名久井岳の峰を下り鉦や太鼓、笛に変わり、どうさいが土を震わし
先太夫が前に千帰り後に千帰りともの申す。
大地に目覚め春一番の風が吹き太夫の摺るあの勇壮な姿は戦国武将の生まれ変わり
やいやいと申しあげればこのえんぶり組が参って候、とは先太夫の口上。
笛は凍てつく寒さにも負けずひょうひょうと物語を表すかのようにもの哀しくあれ時として闊達に
謳いあげ太鼓は太鼓、腕の振りも豪快に今にも太鼓の皮が破れんとし、ここ一番のみせどころ
手ビラ鉦、天を衝く音は春のカミナリ、万物の目覚めを呼び戻し田に眠る虫たちを呼び覚ます。
主役はめんこい子供たち
親方がどうさい棒を振り回し正月のなあヤイで始まるえんぶり唄や雪の舞う中での太夫たちの摺る姿の
荒々しさは駿馬が荒野を駆け巡りたてがみを振り乱す姿とにている。
摺り始めが終わると子供の出番、よろこび舞、大黒舞とその子供たちは衣装を身にまとい
今からの出番をまって少し不安そうであるが舞い始めるととてもめんこく目がほそくなり胸が熱くなる。
子は宝、宝の子は神様、子供は神の子えんぶりの子はかわいい衣装を身にまとい純真無垢な
姿の笑顔の晴れ舞台、えんぶりの主役はかわいさ一番、心和むこの子たち。
えんぶりが終わればホラそごさネコやなぎが芽をふかし山の雪は日のひかりを浴び溶け始める。
えんぶりが終わればもう彼岸の入りには忙しく種籾の準備が始まりこの里の村人たちの
種籾うるがしたど、まだだじゃ、が挨拶がわりになる。
ああ〜明日からオラほでもそろそろ種籾うるがしねばなんねえなあ〜
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