女蝉、男蝉
土の中に暮らすこと7年とか8年いわれるが実際のところ
何年なのか自分でも解らない。だいたい蝉がそんなこと考えたら蝉なんてやってられますか。
もの心ついて地上へ出て7日間の命なんて、でもね、私ら女蝉、男蝉はそれでいいと思ってます。
そしてお互い女蝉、男蝉とめぐり合わせることができたら本望なんです。
だから7日間が短い蝉の命だなんていってほしくないです。
土の中での生活はそりゃ長〜い、気の遠くなる日々を送ってきました。
私ら蝉はむしろそのほうが穏やかで安泰な生活でしたよ。
地上へ出たら女蝉の奪いあいもあるし木に登る途中で鳥に捕食される可能性もあるし
人間の子どもに捕獲されることもある。
こんなことを考えると土の中は自由気ままな生活でしたよ。
でもね、情報はほしいです。
地上はどうなっているだろうか、私ら蝉がいざ地上へ這い出す、その地は放射能
に汚染されていたとしても這い上がるしかないんです、私ら蝉はね。
人間の都合でね、原発ね、怖いね。
柿八年、蝉八年なんて冗談ね。言ってる場合じゃないんですよ、ほんとに
念願の女蝉とめぐりあえたら蝉の男は黙ってやることだけはやる、それが男蝉の生き様
蝉の一生のにおいてこの瞬間が一大イベントこの日のために生きてきたと思い
でしょうが私たち蝉はこの交尾も長い蝉人生からみればただの一過性にすぎません。
交尾自体簡単ですぐ終わります。良かったとか悪かったとか短かった長かった
なんて考える暇もないです。目標に向かって突進あるのみ
一生懸命鳴きます。うるさいほど。声が枯れるほど。
だいたい泣くのは女性のほうが感情の起伏が激しくこんな場面でよく泣けるもんだ
と男性は感心するほうが多い。だいたいです。
蝉の男は泣きません。男蝉たるもの一言も声を発せずヤルべきことはやる
子孫繁栄のため男蝉は声を無にし本懐をつげ儀式が終われば野の屍となれ草となれ。
女蝉、やかましい、朝から晩までミーミー鳴いている。
「あなた、臭いパンツ洗濯機へ入れなさい」男蝉は遠い山のかなた
へ行きたい暮らしたい。
男蝉、蝉のぬけがら野もすがら風に吹かれどこへやら
くるおしく羽をふるわし女蝉を呼ぶ姿はものがなしく夏の終わりを告げる
ヒグラシはその日暮らしを最後に一生を終えやがて日が暮れ疲れ果て空飛ぶ力もなく
あとは野となれ山となれ、これ蝉の一生ね。
夏の終わりのヒグラシの啼く夕方、ボクの目が醒めたのはフクシマ汚染のニュース
の最中だった。